毎日のように会うのに、どうしても遠い存在。それが私の、ひそかな恋の相手だ。
都内の小さなデザイン事務所で働く私にとって、彼の駆けるバイクの排気音は、最高の「元気の素」になっている。オフィス街の雑踏をすり抜け、約束の時間を1分ともたがえずにやってくる彼は、バイク便のプロフェッショナルだ。
「お疲れ様です! 急ぎの荷物、確かにお預かりしました」
ヘルメットを脱いだ瞬間にこぼれる、爽やかな笑顔。汗をぬぐいながらも、荷物を扱う手つきはどこまでも丁寧で、そのギャップにいつも胸がキュッとなる。重いカタログの束をひょいと持ち上げる姿や、悪天候の中でも「任せてください」と言い切る姿には、大人の男の人としての圧倒的な頼りがいを感じてしまう。
彼が運んでくれるのは、単なる書類やサンプルだけじゃない。そこには、クライアントの「今すぐ届けたい」という想いと、私たちの「無事に届いてほしい」という願いが詰まっている。彼はその両方を背負い、東京の街を疾走しているのだ。
一度、私が仕事の手配ミスで泣きそうになっていた時、彼は「大丈夫、僕が一番早いルートで届けますから」と優しさに満ちた声をかけてくれた。その言葉通り、奇跡みたいな速さでトラブルを解決してくれたときから、私の心は完全に彼にスピード違反の恋をしている。
だけど、私と彼はあくまで「クライアント」と「ライダー」。用件が済めば、彼はまた次の街へとバイクを走らせてしまう。ヘルメットのシールドの向こうにある彼の本当の表情や、プライベートの私生活は何も知らない。
「いつもありがとうございます」
そんなありきたりな言葉の裏に隠した本当の気持ちを伝えることが、私にはまだできない。
今日もまた、無事に大仕事を終えた彼が、エンジンに火を入れる。
「それじゃ、行ってきます!」
遠ざかっていく背中を見送りながら、私は心の中で小さく手を振る。いつかこの恋のメッセージを、彼自身の手に届けられる日が来るのだろうか。それまでは、街のヒーローである彼の安全を、ただ一途に祈っている。
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